石川潤平・佳正工房の木目込
江戸時代、京都賀茂川の近くで、柳の木を人の形に彫刻し、表面の溝に布を入れ込んで作られた、高さ数cmの加茂人形が始まりとされています。 その加茂人形が江戸に伝わり、改良された人形が今日の「江戸木目込人形」のルーツと思われます。
衣装着人形は顔かたち、顔と胴のバランスなど人間に近く、写実的に作られます。それに対して木目込人形は、作者の芸術性・独創性を表現します。その意味では人間の形に近くないほど、深遠で優れた人形といえます。
作者は造形したい形をまずデッサンします。そのデッサンをもとに粘土で立体を作ります。幾度も試行錯誤をしながら理想の形を完成させます。その形を人形にするには、木目込の技法でないと不可能です。衣装着人形は、人が着物を着るように着せて手を曲げるのに対し、木目込人形は胴の内部は桐型ですから、より自由な形の表現が可能だからです。
ボディの形と同様、お顔の形も人形の種類によって異なります。当然お顔の形に合わせて目や口の表現も変わらなければなりません。木目込人形の目が画一的なガラスの目ではなく、種類によって違う目を書く「書き目」である理由もそこにあります。
石川潤平工房木目込制作工程 職人の技をご覧ください。
石川潤平工房匠の技【生地】
石川潤平工房匠の技【笹目技法】
石川潤平工房匠の技【筆選び~毛書き】
実演会
石川潤平作:迎春立雛(彩色)
平成5年春、雅子様ご成婚に際し、小和田家に献上された立雛の記念作品です。
当工房では、「迎春雛」を記念販売しております。また、店内には潤平作品を多数展示しております。
専用ケースございます(別売)
笹目技法と能面技法
「笹目技法」とは、イタチの細筆を使い、薄墨を重ねて濃淡を付けながら、片目で50本以上(両目で煩悩の数)の筆を入れ、瞳を表現することによって、目には奥行きとやさしさが生まれます。
「能面技法」とは、まぶたの微妙な盛り上がりと、笹目技法の線の重なりで見る角度によって表情が変化します。同じ目線で見ると穏やかな表情に、見上げると微笑みかける表情に、上から見ると切れ長なお顔に変化します。斜めから見てもまた違った表情ですし、朝、昼、夕方の光の変化によって表情の変化も楽しめます。
枠目技法─書き目
人形の造形にあわせて目の形も変わります。黒目を薄めの墨で描き、瞳を濃い墨で描きます。
高度な技術を要しますが、軟らかくて穏やかな表情に仕上がります。
手書き技法─生え際
薄めの墨で、殿は三本置きに長い線を一本入れて男性の迫力・力強さを出しながら等間隔に丁寧に描きます。
姫は女性らしい優しさを表現するために長い線は入れません。 殿と姫でそれぞれ毛書きの表現を変えている木目込人形は他に類がありません。
濃淡二色の口元
木目込み人形は衣裳着人形とは異なり口を閉じています。閉じた口で微笑みを表現するために、まず中央に赤い紅を塗り、その外側に薄い紅を塗り、唇の一番外側は白く残します。少し離れてみると下の写真のようにお顔がほほえましく見えます。
正絹植込み結髪
髪の素材はスガ糸(絹糸を黒く染めた伝統的な糸)です。顔の周りに溝を作りたっぷりとスガ糸を使用し、お顔に合わせた丸い髪型に結い上げます。また何度も何度もブラッシングして整えますのでどの角度から見ても大変美しいです。
人形に合った愛らしい手
お顔に合わせてふっくらとした手です。爪はピンクに彩色しており、作品の種類によって手の形をすべて変えています(違う種類で共通の手を使っていません)。作品に込める思い入れの一つの表れです。
純金箔盛上彩色
一見刺繍のようにも見えますが江戸時代の嵯峨人形にも用いられた伝統の技法です。
- 粘り気のある胡粉(ごふん=胡粉とは牡蠣の貝殻の粉をにかわに混ぜた伝統的な素材です)を筆で高く(1mm位)盛り上げて輪郭を書きます。胡粉は白いので全体に白く輪郭が完成します。
- 輪郭に漆(うるし)を塗り、純金箔をのせます。漆を塗るときは輪郭以外のところにはみ出ないように気を遣います。漆は純金箔との接着剤になります。漆が乾いてしまうと接着剤としての役にたちません。また漆を塗ってすぐに金箔をのせると金箔が沈んできれいな金色が出ません。絶妙のタイミングで金箔を置かなくてはならないのです。つまり一気に漆を塗ることはできませんので技術だけではなく非常に時間のかかる仕事です。
- 金色に完成した輪郭の内側に絵の具で彩色します。ボディが完成してからの仕事ですので失敗は許されません。また非常に高度な技術と多くの時間を要しますのでこの技法を受け継ぐ職人は僅かであり、盛上彩色はごく一部の高級な人形だけに用いられています。純金箔は黒ずむことがありませんのでいつまでもきれいな金色を保ちます。
石川潤平先生実演日に、この技法でお子様の名前をお入れします。(詳細は当工房にお問い合せください)
※実演日までにご予約いただいたお客様に限らせていただきます。